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夕露に袖濡らせとやひぐらしの
鳴くを聞く聞く起きて行くらむ

歌の意味
夕露に袖を濡らせということなのか。ひぐらしの鳴くのを聞きながら、起きて行っておしまいになるのだろう。
鑑賞
第二部 若菜下

 紫の上の看病に明け暮れていた源氏は、久しぶりに六条院の女三の宮を訪れる。宮は柏木とのことに心を咎められ、源氏の顔をまともに見ることもできない。夕方になり、源氏は二条院へ戻ろうと暇を告げる。この歌はその折に宮が詠んだもので、源氏は返しを詠んで出て行く。翌朝、源氏は早く起きて出立しようとした際に、褥の下から柏木の手紙を見つけてしまう。この訪問が、密通露見のきっかけとなった。

 「夕露」は夕方に置く露で、涙をたとえる語である。「ひぐらし」は夕暮れに鳴く蝉で、日暮れの物寂しさを表す。「起きて行く」は起き上がって帰っていくことで、「起き」に露の「置き」を掛けている。夕方は本来男が女のもとを訪れる時刻であり、その時刻に帰っていくことへの恨みを述べた形である。恨みを直接には言わず、蝉の声と露に託した詠みぶりであるが、宮自身が後ろめたさを抱えている場面であることが、この一首を複雑なものにしている。

夕露:夕方に置く露。涙のたとえ。
ひぐらし:夕暮れに鳴く蝉。
聞く聞く:聞きながら。
起きて行く:起き上がって帰る。「置き」を掛ける。
褥:敷物、寝具。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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