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海人舟にいかがは思ひおくれけむ
明石の浦にいさりせし君

歌の意味
海人の舟に、どうして遅れをおとりになったのだろう。明石の浦で漁をしていらしたあなたなのに。
鑑賞
第二部 若菜下

 源氏の「海人の世を」の歌を受けて、朧月夜が返したのがこの歌である。出家したのは自分のほうが先だと述べつつ、須磨で涙に暮れていたと言う源氏に対し、明石ではほかの女性と縁を結んでいたではないかと切り返している。長い年月を経てなお衰えない機知が働いており、二人の贈答の最後にふさわしい応酬になっている。源氏はこの文を紫の上にも見せ、この人との縁はもはや完全に絶えたことを示す。物語はこの後、朱雀院の五十賀と、柏木の病の重篤へと進んでいく。

 「海人舟」は漁をする舟のことで、「海人」に「尼」を掛け、出家することを舟に乗ることになぞらえている。「思ひおくれけむ」は遅れをとったのだろうという意で、出家の順序を言っている。「いさりす」は漁をすることで、須磨
明石の折に明石の君と結ばれたことをそれとなく指している。相手の海辺の縁語をそっくり受け取ったうえで、須磨の涙という言い分そのものを疑ってみせる構成であり、朧月夜の歌の中でも切れ味のよい返しである。

海人舟:漁をする舟。「尼」を掛ける。
思ひおくる:遅れをとる。後れる。
いさりす:漁をする。
明石の浦:源氏が流離した播磨の海辺。
五十賀:五十歳を祝う長寿の祝い。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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