行方なき空の煙となりぬとも
思ふあたりを立ちは離れじ
- 歌の意味
-
行方も定まらない空の煙となってしまっても、思いを寄せるあたりを立ち離れることはあるまい。
- 鑑賞
-
第二部 柏木
女三の宮からの思いがけない返しを見て、柏木は涙にむせびながら、さらに書き添えたのがこの歌である。柏木が生涯に詠んだ最後の一首となった。この後、宮は男子を出産し、産後の弱りの中で出家を願う。朱雀院が夜ひそかに山を下って六条院を訪れ、源氏の反対を押し切って宮を出家させてしまう。その知らせを聞いた柏木はいよいよ弱り、見舞いに来た夕霧に落葉の宮の後事を託して、泡の消えるように息を引き取る。
「行方なき」は行き先の定まらないことで、煙にかかる語である。「空の煙」は火葬の煙が空に上るさまをいう。「思ふあたり」は心を寄せている人のあたり、すなわち女三の宮のいるところである。「立ちは離れじ」は立ち去るまいということで、「立つ」は前の二首から続く煙の縁語である。死んでも離れないと言い切る内容は、贈答の型を超えて執着そのものを述べており、この後の物語で柏木の霊が現れることの伏線にもなっている。
行方なき:行き先の定まらない。
空の煙:火葬の煙。
思ふあたり:心を寄せている人のいるあたり。
立ちは離れじ:立ち去るまい。「立つ」は煙の縁語。
落葉の宮:柏木の妻。朱雀院の女二の宮。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-