古典和歌stream

誰が世にか種は蒔きしと人問はば
いかが岩根の松は答へむ

歌の意味
いったい誰の世に種を蒔いたのかと人が尋ねたら、岩根の松はどう答えるのだろう。
鑑賞
第二部 柏木

 弥生になり、空もうららかになったころ、生まれた若君の五十日の祝いが営まれる。若君は白く美しく育っており、源氏はその顔を見るにつけ、亡き柏木の面影を思わずにいられない。出家して尼となった女三の宮は、源氏の前に出ることも恥ずかしく、ふさぎ込んでいる。この歌はその折、源氏が若君を抱きながら宮に向けて詠んだものである。宮は答えることができず、ただ顔を赤らめて涙をこぼすばかりであった。

 「誰が世にか」は誰の代に、誰との間にという意で、「世」に男女の仲を含ませている。「種は蒔きし」は子をもうけたことのたとえである。「岩根の松」は岩に根を張る松で、若君すなわち薫を指す。誰が父かと問われたらどう答えるのかという内容であり、事実をすべて承知したうえでの詰問になっている。祝いの席で祝いの体裁を保ちながら、相手にしか通じない刃を差し出す詠みぶりで、源氏の冷ややかさがもっともよく表れた一首である。

誰が世にか:誰の代に。「世」に男女の仲を含む。
種を蒔く:子をもうけることのたとえ。
岩根の松:岩に根を張る松。ここでは若君(薫)。
五十日の祝い:誕生から五十日目に行う祝い。
尼宮:出家した女三の宮の呼び名。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌