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この春は柳の芽にぞ玉はぬく
咲き散る花の行方知らねば

歌の意味
この春は柳の芽に涙の玉を貫いている。咲いて散った花の行方も分からないので。
鑑賞
第二部 柏木

 夕霧の「時しあれば」の歌を受けて、一条御息所が返したのがこの歌である。桜が変わらず咲いたと言われても、こちらは泣き暮らすばかりだと述べ、娘の行く末を案じる心を打ち明けている。夫を失った落葉の宮は、後見となる者もないまま母と二人で残された。この母の嘆きが、後に夕霧との関わりを深める入口ともなっていく。夕霧はこの後、柏木の父である致仕の大殿の邸へも足を運ぶ。

 「柳の芽に玉はぬく」は柳の芽に露の玉を貫き通したように見えるということで、涙をたとえた言い方である。「咲き散る花」は咲いてはすぐに散る桜のことで、若くして世を去った柏木を指すとともに、行き先の定まらない娘の身の上をも重ねている。「行方知らねば」は行く末が分からないのでということである。相手の歌が桜を詠んだのを受けて柳に転じ、同じ春の景を用いながら嘆きの側へ引き寄せた返しになっている。

玉をぬく:玉を糸で貫き通す。涙が連なるさま。
柳の芽:芽吹いたばかりの柳。
咲き散る花:咲いてすぐ散る花。
行方:行く先、将来。
致仕の大殿:官を退いた大臣。ここでは柏木の父。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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