古典和歌stream

亡き人も思はざりけむうち捨てて
夕べの霞君着たれとは

歌の意味
亡くなった人も思わなかっただろう。親を後に残して、夕べの霞のような喪服をあなたに着せることになろうとは。
鑑賞
第二部 柏木

 致仕の大殿の「木の下の」の歌を受けて、夕霧が詠んだのがこの歌である。親に先立つことなど、柏木自身も思ってはいなかっただろうと述べ、父の嘆きを受け止めている。夕霧は柏木の無二の親友であり、臨終の際にはそれとなく事情をほのめかされ、落葉の宮の後事まで託されていた。しかし密通の真相まで打ち明けられたわけではなく、夕霧の胸には解けない疑いが残ったままである。その疑いは、この後の巻へと持ち越されていく。

 「亡き人」は亡くなった柏木を指す。「うち捨てて」は後に残していくことで、親を残して先に世を去ったことをいう。「夕べの霞」は相手の歌の「霞の衣」を受けた語で、喪服を指しつつ、夕暮れの薄暗さを添えている。「君着たれとは」は、あなたに着せようとはという意である。相手の語を確かに引き継ぎ、嘆きの主体を父から亡き子へと移すことで、責める相手のいない悲しみをそのまま言い表している。

亡き人:亡くなった人。ここでは柏木。
うち捨つ:後に残していく。
夕べの霞:夕暮れの霞。喪服を暗示する。
着たれとは:着よとは。着せようとは。
無二:またとない、かけがえのない。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌