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木の下の雫に濡れてさかさまに
霞の衣着たる春かな

歌の意味
木の下の雫に濡れて、順序が逆さまに、霞のような喪服を着ている春であることよ。
鑑賞
第二部 柏木

 一条宮を辞した夕霧は、その足で致仕の大殿の邸を訪ねる。柏木の父であるこの大臣のもとには、弟の君たちが大勢集まっていた。長男を先に失った父の嘆きは深く、夕霧と対面してもすぐには涙をこらえきれない。この歌はその折に大臣が詠んだもので、夕霧、そして柏木の弟である弁の君が続けて詠み、三首の唱和となる。柏木の死をめぐる哀悼はこの場面で一つの頂点に達し、物語は残された人々の日常へと移っていく。

 「木の下の雫」は木の下で受ける雫のことで、涙に濡れることをたとえている。「さかさまに」は順序が逆であるということで、本来は子が親の喪に服すべきところ、親が子の喪に服しているという意である。「霞の衣」は薄い霞を衣に見立てた語で、ここでは喪服を指す。春という季節の明るい景物をすべて喪の色に置き換える構成であり、子に先立たれた親の嘆きを、季節と衣という日常の言葉だけで言い表している。

木の下の雫:木の下で落ちてくる雫。涙のたとえ。
さかさまに:順序が逆に。親が子の喪に服すこと。
霞の衣:霞を衣に見立てた語。ここでは喪服。
致仕の大殿:官を退いた大臣。柏木の父。
弁の君:柏木の弟。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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