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露しげきむぐらの宿にいにしへの
秋に変はらぬ虫の声かな

歌の意味
露の深く置く葎の宿に、昔の秋と変わらない虫の声が聞こえることよ。
鑑賞
第二部 横笛

 夜が更け、夕霧が帰ろうとするころ、母の一条御息所が言葉を寄こす。荒れた邸に響いた今宵の音が、柏木の生きていたころの秋と少しも変わらなかったというのである。御息所はそう述べたうえで、柏木が生前愛用していた横笛を形見として夕霧に贈った。この歌はその折に添えられたものである。夕霧は返しを詠んで笛を受け取り、邸を後にする。この笛が人から人へと渡っていくさまが、この巻の主題となる。

 「露しげき」は露が多く置いていることで、涙の多さをも含ませている。「むぐらの宿」は葎の生い茂った荒れた住まいのことで、主を失った一条宮の様子を表している。「いにしへの秋」は柏木の在りし日の秋である。「虫の声」は庭に鳴く虫の音であるとともに、今宵の管絃の音をも重ねた語で、昔と変わらぬものと、失われて戻らぬものとを一首の中で対比させている。形見を贈る場にふさわしい、抑えた詠みぶりである。

露しげき:露が多く置いている。涙の多さを含む。
むぐら:葎。荒れ地に茂るつる草。
いにしへ:昔、過ぎ去った日。
虫の声:虫の鳴き声。今宵の音楽をも重ねる。
形見:故人を偲ぶよすがとなる品。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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