古典和歌stream

雲の上をかけ離れたるすみかにも
もの忘れせぬ秋の夜の月

歌の意味
宮中の雲の上を遠く離れた住まいにも、忘れずに訪れてくれる秋の夜の月であることよ。
鑑賞
第二部 鈴虫

 八月十五夜、六条院には蛍兵部卿宮や夕霧をはじめ上達部が次々に参上し、思いがけず管絃の宴となった。内裏で予定されていた月の宴が取りやめになったためである。夜が更けるころ、退位して仙洞の御所に住む冷泉院から使いが来て、この歌が届けられた。冷泉院は源氏と藤壺の子であり、その出生の秘密を知る者は限られている。源氏は返しを詠み、居合わせた親王や公達を引き連れて冷泉院の御所へ参上する。そこで詩歌管絃の遊びが明け方まで続いた。

 「雲の上」は宮中を指す語である。「かけ離れたる」は遠く離れているということで、退位して内裏を出た我が身の境涯を述べている。「すみか」は住まいのことである。「もの忘れせぬ」は忘れることがないという意で、月が変わらず照らすことを言いながら、こちらを訪れない源氏への恨みをそれとなく含ませている。月に託して招きの意を伝える形であり、風雅な誘いの中に親しみと寂しさとが同時に置かれている。

雲の上:宮中。
かけ離る:遠く離れる。
すみか:住まい。
もの忘れせぬ:忘れることがない。
仙洞:退位した天皇の御所。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌