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我のみや憂き世を知れるためしにて
濡れそふ袖の名を朽たすべき

歌の意味
私だけが不幸な世を知った例として、さらに涙に濡れる袖の、その名までも朽ちさせなければならないのだろうか。
鑑賞
第二部 夕霧

 夜が更けるにつれ、風の音、虫の音、鹿の声、滝の音がひとつに乱れて響く。その中で夕霧は御簾のうちに入り込み、宮の袖をとらえて長年の思いを訴え続ける。宮は柏木との結婚ですでに世のつらさを知り尽くしており、その上さらに悪い評判まで立てられるのかと嘆く。この歌はその折に詠まれたものである。夕霧は返しを詠んで引かず、宮は塗籠のような奥へ身を寄せて拒み続ける。

 「我のみや」は私だけがという反語を含んだ言い方である。「憂き世を知れるためし」は不幸な結婚を経験した例のことで、柏木との日々を指している。「濡れそふ袖」は涙でいっそう濡れる袖である。「名を朽たす」は評判を落とすことで、「朽つ」は袖が朽ちる意と評判が崩れる意とを兼ねている。同じ袖という一語に涙と世評の両方を負わせる構成であり、恋の拒絶ではなく身の破滅への恐れを述べている点に、この人の置かれた立場が表れている。

我のみや:私だけが~か。反語を含む。
憂き世:つらい世の中。ここでは不幸な結婚。
ためし:先例、例。
名を朽たす:評判を落とす。
塗籠:土壁で囲まれた納戸のような部屋。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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