分け行かむ草葉の露をかことにて
なほ濡衣をかけむとや思ふ
- 歌の意味
-
分けて行く草葉の露を言いがかりにして、それでもなお私に濡れ衣を着せようとお思いなのか。
- 鑑賞
-
第二部 夕霧
夕霧の「荻原や」の歌を受けて、落葉の宮が返したのがこの歌である。帰り道が濡れることを口実に、ありもしない仲を世間に思わせようとしているのではないかと、はっきり言い当てている。宮の警戒は的中しており、実際にこの朝帰りの姿が律師の目に触れ、母の御息所の知るところとなる。御息所は病をおして夕霧に文を書くが、その直後に容体が急変することになる。
「分け行かむ」は霧や草を分けて行くことで、相手の歌の「分けぞ行くべき」を受けている。「草葉の露」も相手の「露」を受けた語である。「かこと」は言いがかり、口実のことである。「濡衣をかけむ」は濡れ衣を着せることで、これも前の贈答から続く語であり、露に濡れる意と身に覚えのない噂を負わされる意とを掛けている。相手の語を一つ残らず受け取ったうえで、その意図だけを言い当てて返す構成であり、宮の歌の中でもとりわけ鋭い一首である。
分け行く:草や霧を分けて進む。
かこと:言いがかり、口実。
濡衣をかく:身に覚えのない噂を負わせる。
草葉の露:草の葉に置く露。
容体:病気の様子。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-