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恋しさの慰めがたき形見にて
涙にくもる玉の筥かな

歌の意味
恋しさを慰めることのできない形見として、涙に曇る玉の箱であることよ。
鑑賞
第二部 夕霧

 小野の山荘を離れる支度が進む中、落葉の宮の手もとには母の形見となった玉の箱が残されていた。中には母が読んでいた法華経が納められている。母を偲ぶよすがであるはずのものが、かえって恋しさをつのらせるばかりであり、宮は涙に暮れながらこの歌を書きつける。やがて宮は人々に促されて一条宮へ移り、そこでは夕霧が主人顔をして待ち構えていた。宮は塗籠に籠って夕霧を避けようとする。

 「恋しさの慰めがたき」は恋しさを慰めることができないという意である。「形見」は故人を偲ぶよすがとなる品のことで、ここでは母の遺した箱を指す。「涙にくもる」は涙で曇って見えることで、涙のせいで箱がはっきり見えないさまをいう。「玉の筥」は美しい箱のことで、母が用いた経箱である。形見が慰めにならないという逆説を軸に据え、目の前の一つの品だけを詠むことで、かえって喪失の深さが伝わってくる一首になっている。

形見:故人を偲ぶよすがとなる品。
慰めがたし:慰めることができない。
くもる:涙で曇って見えなくなる。
玉の筥:美しい箱。ここでは経を納めた箱。
法華経:仏教の代表的な経典。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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