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松島の海人の濡衣なれぬとて
脱ぎ替へつてふ名を立ためやは

歌の意味
松島の海人の濡れ衣が着馴れたからといって、脱ぎ替えてしまったという評判を立ててよいものだろうか。
鑑賞
第二部 夕霧

 雲居雁の「馴るる身を」の歌を受けて、夕霧が返したのがこの歌である。長年連れ添ったからといって、夫を捨てて尼になったという噂を立ててよいものかと、出家をほのめかす妻をたしなめている。しかしこの返しは雲居雁の怒りを鎮めるには足りなかった。夕霧が塗籠の落葉の宮のもとに泊まった翌朝、雲居雁は幼い子らを連れて実家へ帰ってしまう。夕霧が迎えに行っても取り合おうとせず、二人の仲は決裂する。

 「松島の海人の濡衣」は相手の歌の「松島」「海人」を受けた語で、「濡衣」は身に覚えのない噂の意も掛けている。「なれぬ」は着馴れたということで、「馴る」の語も相手から引き継いでいる。「脱ぎ替へつ」は脱いで着替えたことで、尼衣に替えることをいう。「名を立つ」は評判を立てることである。相手の語をすべて受け取ったうえで、世間体という一点に話を移して押しとどめる構成であり、夕霧の説得がつねに理屈に頼ることをよく示している。

濡衣:濡れた衣。身に覚えのない噂を掛ける。
なる:着馴れる。馴れ合う意を掛ける。
脱ぎ替ふ:脱いで着替える。尼衣に替える意。
名を立つ:評判を立てる。
決裂:交渉や関係が破れること。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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