人の世の憂きをあはれと見しかども
身にかへむとは思はざりしを
- 歌の意味
-
他人の夫婦仲のつらさをいたわしいと見てはきたけれど、それが我が身に代わることになろうとは思わなかった。
- 鑑賞
-
第二部 夕霧
藤典侍の「数ならば」の歌を受けて、雲居雁が返したのがこの歌である。これまで人の身の上として見てきた夫婦仲の苦しみが、まさか自分の身に起きようとは思わなかったと述べ、相手の慰めを素直に受け止めている。長年、夫の愛人という立場にあった藤典侍と、正妻である雲居雁とが、ここでは同じ苦しみを分け合う者として向き合っている。第三十九帖はこの贈答をもって閉じられ、物語は御法の巻へと進んでいく。
「人の世」は他人の身の上のことで、他人の夫婦仲を指している。「憂き」はつらいことである。「あはれと見し」はいたわしいと見てきたということで、相手の歌の語を受けている。「身にかへむ」は我が身に代わる、我が身の上に起きるという意である。他人事として見ていたものが自分の身に降りかかったという構成は素朴でありながら実感がこもっており、正妻の座にありながら救われない雲居雁の立場をよく伝えている。
人の世:他人の身の上。他人の夫婦仲。
憂き:つらいこと。
あはれと見る:いたわしいと見る。
身にかふ:我が身に代わる、我が身に起こる。
御法:第四十帖の巻名。紫の上の死を描く。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-