古典和歌stream

いにしへの秋さへ今の心地して
濡れにし袖に露ぞおきそふ

歌の意味
昔の秋のことまでが今のことのような心地がして、涙に濡れたままの袖に、さらに露が置き添うことだ。
鑑賞
第二部 御法

 紫の上の死は世に広く伝わり、帝をはじめ弔問の使いがひきもきらず訪れた。柏木の父である致仕大臣もその一人である。この人にとっては、三十年ほど前の同じ秋に妹の葵の上を失った記憶があり、その悲しみが今の弔いに重なってくる。この歌はその折に源氏へ贈られたものである。源氏は返しを詠んで応じるが、悲しみのあまり人前に出ることも少なく、日々を念仏のうちに過ごすようになる。

 「いにしへの秋」は昔の秋のことで、葵の上を亡くした秋を指している。「さへ」は~までもという意で、今の悲しみに昔の悲しみが加わることを示す。「今の心地して」は今のことのように感じられてという意である。「濡れにし袖」はすでに涙に濡れた袖のことである。「露ぞおきそふ」は露がさらに置き加わるということで、露は涙のたとえであり、「置く」は露の縁語である。二つの秋の死を一つの袖の上に重ねる構成であり、弔問の歌としてよく整っている。

いにしへの秋:昔の秋。ここでは葵の上を失った秋。
さへ:~までも。
濡れにし袖:すでに涙に濡れた袖。
おきそふ:置き加わる。「露」の縁語。
致仕大臣:官を退いた大臣。かつての頭中将。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌