枯れ果つる野辺を憂しとや亡き人の
秋に心をとどめざりけむ
- 歌の意味
-
枯れ果てていく野辺をつらいと思ってか、亡くなったあの方は、秋に心をとどめなかったのだろうか。
- 鑑賞
-
第二部 御法
弔問の使いは絶えることなく続き、秋好中宮からも源氏のもとへ文が届く。中宮は六条御息所の娘であり、源氏に養われて后の位に上った人である。紫の上とは春秋の優劣を歌に詠み交わしたこともあり、生前から親しい関わりがあった。この歌はその弔いの文に添えられたものである。源氏は返しを詠み、この贈答をもって弔問の場面は結ばれる。第四十帖はこの後、紫の上を失った源氏の年の暮れを描いて閉じられていく。
「枯れ果つる野辺」は草木がすっかり枯れた野原のことで、秋の終わりの景であるとともに、人の生涯の終わりをも思わせる語である。「憂しとや」はつらいと思ってかという意である。「亡き人」は紫の上を指す。「秋に心をとどめざりけむ」は秋を好まなかったのだろうかという意で、紫の上が生前春を好んでいたことを踏まえている。故人の好みを弔いの言葉に取り込む構成であり、春秋を論じ合った二人の関わりがここで静かに回収されている。
枯れ果つ:すっかり枯れる。
野辺:野原。
憂し:つらい、いとわしい。
心をとどむ:心を寄せる、愛着する。
秋好中宮:六条御息所の娘。源氏の養女で冷泉院の后。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-