昇りにし雲居ながらもかへり見よ
われ飽きはてぬ常ならぬ世に
- 歌の意味
-
煙となって昇っていった雲の上からでも、こちらを振り返って見てほしい。私はこの無常の世にすっかり飽き果ててしまった。
- 鑑賞
-
第二部 御法
秋好中宮の「枯れ果つる」の歌を受けて、源氏が返したのがこの歌である。亡き人に向かって、雲の上から自分を見ていてほしいと呼びかけ、この世にもはや何の未練もないと言い切っている。相手への返事という体裁を取りながら、実際には紫の上へ語りかける形になっているところに、源氏の心の在りようが表れている。この巻はこの後、悲しみのうちに年の暮れを迎える源氏の姿を描いて閉じられ、物語は最後の幻の巻へと進んでいく。
「昇りにし雲居」は火葬の煙となって昇っていった雲の上のことで、亡き紫の上のいる場所を指す。「かへり見よ」は振り返って見よという呼びかけである。「飽きはてぬ」はすっかり飽き果てたということで、「飽き」に「秋」を掛け、相手の歌の「秋」を受けている。「常ならぬ世」は無常のこの世である。弔問への返しでありながら、宛先が亡き人へ移っていく構成であり、紫の上を失った源氏の空白がそのまま言葉に表れた一首である。
昇りにし雲居:火葬の煙が昇っていった雲の上。
かへり見る:振り返って見る。
飽きはつ:すっかり飽きる。「秋」を掛ける。
常ならぬ世:無常のこの世。
幻:第四十一帖の巻名。源氏最後の一年を描く。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-