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植ゑて見し花のあるじもなき宿に
知らず顔にて来ゐる鴬

歌の意味
植えて眺めた花の主人ももういない家に、知らぬ顔をしてやって来て鳴いている鴬であることよ。
鑑賞
第二部 幻

 二月になり、二条院の庭では紫の上が手ずから植えさせた木々が花をつけ、鴬が鳴きはじめる。源氏は幼い匂宮を連れてその庭を歩き、紫の上が生前この桜を大事にしていたことを思い出す。鴬が何も知らぬように鳴くのを聞いて詠んだのがこの独詠歌である。この後、源氏はいよいよ出家の志を固め、身のまわりを片づけはじめる。庭も邸も、やがて荒れるにまかせることになるという思いが、次の歌へと続いていく。

 「植ゑて見し花のあるじ」は自ら植えて眺めていた花の持ち主のことで、紫の上を指す。「なき宿」は主のいない家である。「知らず顔にて」は事情を知らないような顔つきでという意である。「来ゐる鴬」はやって来てとまっている鴬のことである。自然は何も変わらず巡ってくるのに人だけがいないという構図で、鴬という無心なものを置くことでかえって喪失が際立つ。源氏物語の追悼歌の中でも素直な一首である。

植ゑて見し:自ら植えて眺めていた。
あるじ:主人、持ち主。
知らず顔:事情を知らないような顔つき。
来ゐる:やって来てとまっている。
匂宮:明石の中宮の子。紫の上が可愛がった孫。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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