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なくなくも帰りにしかな仮の世は
いづこもつひの常世ならぬに

歌の意味
泣きながらも帰ってきてしまったことだ。この仮の世は、どこもかしこも永遠の住まいではないのだから。
鑑賞
第二部 幻

 春の暮れ、帰る雁の声を聞きながら、源氏は明石の君のもとを訪れる。明石の君は娘の明石の中宮を紫の上に託して育ててもらった人であり、紫の上の死を誰よりも深く悼む一人であった。しかし源氏は紫の上を失って以来、どの女君のもとにも心を落ち着けることができない。この歌はその折に明石の君へ贈ったものである。明石の君は返しを詠み、源氏の訪れが絶えていたことをそれとなく訴える。源氏はこの後も、どこに身を置いても心の慰まぬまま日を送る。

 「なくなくも」は泣きながらもの意で、「鳴く」を掛けて雁の声を響かせている。「帰りにし」は帰ってきたということで、常世から渡ってくる雁に自分を重ねている。「仮の世」はかりそめのこの世で、「仮」に「雁」を掛けている。「常世」は永遠に変わらぬ国のことで、「常」に「床」を響かせる読みもある。雁という一つの景に、渡り
帰り
仮住まいという意味を重ね、どこにも安らげぬ身を述べた技巧の多い一首である。

なくなく:泣きながら。「鳴く」を掛ける。
仮の世:かりそめのこの世。「雁」を掛ける。
つひの:最後の、永遠の。
常世:永遠に変わらぬ国。
明石の中宮:明石の君の娘。紫の上が養い育てた。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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