古典和歌stream

雁がゐし苗代水の絶えしより
映りし花の影をだに見ず

歌の意味
雁がいた苗代の水が絶えてしまってからは、そこに映っていた花の影さえ見ることがない。
鑑賞
第二部 幻

 源氏の「なくなくも」の歌を受けて、明石の君が返したのがこの歌である。紫の上が世を去ってからは、源氏の姿を見ることさえなくなったと述べ、訪れの絶えたことを控えめに訴えている。明石の君は身分の低さを自覚しながら長く六条院に仕えてきた人であり、恨みを直接には述べないのがこの人らしい詠みぶりである。源氏はこの後も出家の思いを深めながら、女君たちのもとを訪ねては昔を語るという日々を重ねていく。

 「雁がゐし」は雁がいたということで、相手の歌の「雁」を受けている。「苗代水」は苗代に張った水で、ここでは紫の上をたとえている。「絶えしより」は絶えてしまってからということである。「映りし花の影」は水面に映っていた花の影で、源氏そのひとを指す。水がなくなれば映る影もないという理の通った見立てであり、紫の上という存在が源氏と自分をつないでいたことをそのまま言い表している。

雁:渡り鳥。相手の歌から受けた語。
苗代水:苗代に張った水。ここでは紫の上。
絶ゆ:途絶える、尽きる。
映りし花の影:水面に映った花の姿。ここでは源氏。
だに:~さえ。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌