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本つ香のにほへる君が袖ふれば
花もえならぬ名をや散らさむ

歌の意味
もともと身に備わった香の匂うあなたの袖が触れるなら、花もこの上ない評判を世に広めることだろう。
鑑賞
第三部 紅梅

 前日の返しを若君が持ち帰り、大納言に見せる。大納言は、憎らしい言い方をするものだと言い、匂宮があまりに好色な方に傾いているのを自分たちが許さぬと聞いて、右大臣や自分の前ではことさら真面目に構えているのがおかしい、浮気な人としても十分な人柄を無理に堅く見せるのも見どころがない、などと陰口をきく。それでも諦めず、その日もまた若君を参内させるついでに贈ったのがこの歌である。歌のあとには、我ながら色めいたことを申しました、恐れ入ります、と真面目な口調で書き添えてある。匂宮はこれを、文のやりとりで縁談が進んでいるように世間へ印象づける気かと受け取りながら、さすがに心を動かされる。

 「本つ香」は匂宮に生まれつき備わった香を指し、匂宮巻で薫と並べて語られた身の香を受けている。「にほへる君が袖ふれば」は、その袖が花に触れればという意で、婿として通ってくれればということを言い換えている。「花」は中の君、「えならぬ名を散らす」は、何とも言えないほどの評判が世に広まるということである。花の香が風に散るという景と、評判が世に広まるという意味とを、「散らす」の一語で重ねている。前の歌で断られたにもかかわらず、相手の身の香を持ち出して褒め、そちらの得になる話として畳みかけており、娘の縁組にかける大納言の熱心さがそのまま出た一首である。

本つ香:もともと身に備わっている香り。
にほふ:色や香りが美しく映える。
袖ふる:袖が触れる。ここでは婿として通うことのたとえ。
えならぬ:何とも言えないほどすぐれた。
名を散らす:評判を世に広める。花が散ることに掛けている。
あなかしこ:恐れ多いことです。手紙の結びに用いる言葉。
しりうごつ:陰口を言う。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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