古典和歌stream

花の香をにほはす宿にとめゆかば
いろにめづとや人のとがめん

歌の意味
花の香を漂わせている宿を尋ねて行ったなら、色に心を寄せる者だと人が咎めるだろう。
鑑賞
第三部 紅梅

 大納言の二度目の歌を受けての返しである。匂宮は、この文のやりとりで縁談が進んでいるように世間へ印象づけるつもりかと察しながらも、自分が婿として想定されていることに、さすがに心を動かされる。しかしなお警戒を解かず、こう答えた。大納言はこれを心やましく思っている。この後、大納言は真木柱と匂宮のことを語り合うが、匂宮の心は中の君ではなく継子の宮の御方に向いており、宮の御方自身は内気な性質から匂宮の文に返事をしようとしない。真木柱も匂宮の多情を思うと踏み切れず、巻はそのまま閉じる。

 「花の香をにほはす宿」は大納言の家、また中の君を指し、初めの歌の「風のにほはす園の梅」を言い換えて受けている。「とめゆく」は尋ねて行くことで、通うことをいう。「いろ」は紅梅の色と好色の色とを掛けており、そこへ通えば色好みだと世間に咎められるだろうと述べて、これも断りの形になっている。四首は「にほふ」「香」「花」の語で一続きにつながっており、贈った側が二度とも花にこと寄せて求め、返した側が二度とも仮定の形で身をかわすという構図で並ぶ。源氏物語紅梅巻の和歌はこの四首だけで、すべてが大納言と匂宮の贈答である。娘の縁組をめぐる駆け引きが歌のやりとりだけで示され、匂宮の関心が別のところにあることは読者にだけ明かされたまま、話は竹河巻へと移っていく。

とめゆく:尋ねて行く。訪ね求めて行く。
いろ:紅梅の色と、好色の意とを掛けている。
めづ:賞美する、心を寄せる。
とがむ:非難する、咎める。
心やまし:思うようにならず不快である。
宮の御方:真木柱が先の夫との間にもうけた娘。東の姫君ともいう。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌