古典和歌stream

いでやなぞ数ならぬ身にかなはぬは
人に負けじの心なりけり

歌の意味
さてどうしたことか、物の数でもない我が身で思うようにならないのは、人に負けまいとする心なのだった。
鑑賞
第三部 竹河

 中将のおもとの曹司に来た蔵人少将は、呆れるほどに恨み嘆くので、取り次ぎ役の彼女も冗談を言いにくく、気の毒に思ってろくに返事もしない。少将は、姫君たちの碁の見証をしたあの夕暮のことまで持ち出して、せめてあの程度の夢をもう一度見たい、今後は何を頼みに生きればよいのかと真剣に言う。中将のおもとが、尚侍の君のお耳に入ればいよいよ疎まれましょう、とかえって非難してみせると、少将は今は限りの身だと開き直り、大君が碁に負けたのが気の毒だった、自分が目くばせして手を教えていれば勝負にもならなかったろうにと言って、この歌を詠んだ。

 「数」「負け」はいずれも碁の縁語で、表向きは碁の勝負に負けたくないという気持ちを言っている。その裏に、冷泉院に負けたくないという思いが漂う。「数ならぬ身」と自分を卑下しておきながら、それでも人に負けまいとする心だけは抑えられないと述べており、身の程を知りつつ諦めきれない少将の性格がそのまま出ている。碁の見証の場面から続く縁語の遊びが、ここでは恋の敗北を語る言葉として使われている。

いでや:さてまあ。感動詞。
なぞ:どうして。なぜ。
数ならぬ身:物の数にも入らない身。取るに足りない身の上。
見証:勝負ごとの立会人。
縁語:一首の中で意味の上で関わり合う語。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌