今日ぞ知る空をながむる気色にて
花に心をうつしけりとも
- 歌の意味
-
今日こそ分かった。空を眺めているような様子で、実は花に心を移していたのだと。
- 鑑賞
-
第三部 竹河
尚侍の君の御前では、上臈の女房たちが蔵人少将の様子を気の毒だと口々に申し上げていた。中でも中将のおもとが、生き死にを、と言った様子は口先だけではなく心苦しげであった、と伝えるので、尚侍の君も気の毒にお聞きになる。そこへ少将からのこの日の文が届き、女房たちが気の毒がる中で返されたのがこの歌である。詠んだ女房に対し、他の者が、お気の毒に、戯れごととばかり決めつけるものではない、と言うけれども、面倒がって書き直そうとしない。
「空をながむる」は、物思いに沈んで空を眺めることで、古今集の「大空は恋しき人の形見かは物思ふごとにながめらるらむ」の趣に通じる。相手が「花を見て春は暮らしつ」と言ったのを受け、空を眺めるふりをしながら実は花に心を移していたのだと切り返している。真剣な訴えを浮気心と取りなした、そっけない返しである。他の女房が気の毒がったのは、少将の思いつめようを知っていたからで、返歌をした者との温度差が、この場のやりとりをかえって生々しくしている。
けしき:様子。ありさま。
ながむ:物思いに沈んで眺める。
うつす:移す。心を他へ向ける。
上臈:身分の高い女房。
うるさがる:面倒に思う。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-