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あはれてふ常ならぬ世のひと言も
いかなる人にかくるものぞは

歌の意味
あはれという、無常なこの世での一言も、どのような人に向けてかけるものなのか。
鑑賞
第三部 竹河

 四月九日、大君は冷泉院に参院する。夕霧をはじめ方々から車や供人が贈られ、支度は入内にも劣らぬ賑わいであった。その日、蔵人少将は例の中将のおもとに言葉を尽くして、今は最期と諦めた命がさすがに悲しい、気の毒に思うとその一言だけでもおっしゃってくだされば、それに引き留められてしばらくは生き長らえもしようと書き送る。持って参ると、姫君二人は別れを惜しんで沈み込んでいた。父君が思い定めていた行く末を思い出して胸に迫る折であったからか、大君はその文を手に取ってご覧になり、両親健在の身で何を大げさなと訝しみながら、今は限りとあるのを本当かとお思いになって、文の端にこの歌を書き付けられた。清書して送れとおっしゃるのを、中将のおもとはそのまま返してしまう。

 「あはれてふ」は、少将の文にあった「あはれと思ふ」を受けたもの。「常ならぬ世」も同じく文中の「今は限り」を受けており、相手の言葉を一つ一つ拾い上げて組み立てられている。無常の世で命を惜しむような一言を、どういう相手に向けて言うものなのか、と空とぼけてみせた歌である。この歌に続けて、縁起でもないことなら自分も父を亡くして少しは知っている、と書き添えており、両親の揃った身で大げさなことをと突き放す響きがある。大君が蔵人少将に返した唯一の歌であり、参院当日という折も重なって、少将の涙はいっそう止まらなくなる。

あはれ:気の毒だ。しみじみと心を動かされる。
てふ:という。「といふ」の約。
常ならぬ世:無常の世。定めない世の中。
かく:心にかける。言葉をかける。
参院:上皇の御所に入って仕えること。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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