手にかくるものにしあらば藤の花
松よりまさる色を見ましや
- 歌の意味
-
手に取ってかけられるものであったなら、藤の花の、松よりもまさるその色を見ることができただろうか。
- 鑑賞
-
第三部 竹河
薫は冷泉院の御前に明け暮れ召し寄せられ、昔の光る源氏の若き日に劣らぬ寵愛を受けていた。院の内ではどの御方とも親しく交わり、大君の御方にも、ただ一通りの好意を寄せているように振る舞いながら、内心ではこの私をどうご覧になっているだろうという気持ちを抱いていた。ある夕暮れのしめやかな折、薫が藤侍従と連れ立って歩いていると、大君の御前近くに見やられる五葉松に藤がたいそう美しく咲きかかっている。水のほとりの石を苔の筵にして眺め入り、はっきりとは言わずに世の中を恨めしげにほのめかしながら語らううちに詠んだのがこの歌である。
「藤の花」は大君のたとえで、五葉松に咲きかかる藤の姿にその身の上を重ねている。手に取ってかけられるものであったなら、松にまさるこの色を自分のものとして見ただろうか、と述べており、手の届かぬ相手であったことを花になぞらえて嘆いている。花を見上げるその様子が妙にしみじみと心苦しく見えたので、藤侍従は自分の意にそわぬ事情をほのめかして返すことになる。薫は取り乱すほど思い入れていたわけではないが、それでも残念には思っていたのだと語られる。
手にかく:手に取ってかける。手に入れる。
五葉:五葉松。葉が五本ずつ束になる松。
まさる:まさっている。すぐれている。
しめやか:ひっそりと静かなさま。
筵:敷物。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-