古典和歌stream

生ける世の死は心にまかせねば
聞かでややまむ君がひとこと

歌の意味
生きているこの世では死ぬことも心のままにならないので、あなたの一言を聞かないまま終わってしまうのだろうか。
鑑賞
第三部 竹河

 大君からの返しを得た蔵人少将は、参院当日にそれをいただいたことの重なりに、いよいよ涙が止まらない。すぐさま、誰の名が立つというのでしょう、などと非難がましく書き添えて返したのがこの歌である。続けて、せめて自分の墓の上に情けをかけてくださるお心と思えたなら、一途に死を急ぎもしましょうに、と書いてある。これを見た大君は、悪い返事をしてしまった、女房が書き直さずにそのまま送ったのだと苦しく思われて、何もおっしゃらなくなる。

 拾遺集の「生き死なむ事の心にかなひせばふたたび物は思はざらまし」の趣を踏まえ、死ぬことさえ思うにまかせぬのだから、あなたの一言を聞かずに終わるのだろうかと訴えている。相手の「いかなる人にかくるものぞは」を受け、その一言をこそ待っているのだと言い返した形である。「誰が名はたたじ」は古今集の「恋ひ死なばたが名はたたじ」を踏まえた言葉で、自分が死ねばあなたの名が立つと当てこすっている。墓の上に云々は、季札が徐君の墓の木に剣を掛けた故事を思わせる言い方で、死後の情けまで求める執着ぶりが表れている。

生ける世:生きているこの世。
まかす:思うようにする。任せる。
やまむ:終わってしまうだろう。
名が立つ:噂が立つ。評判になる。
塚:墓。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌