古典和歌stream

立ち寄らむ蔭と頼みし椎が本
空しき床になりにけるかな

歌の意味
立ち寄るべき木蔭と頼みにしていた椎の木の根もとは、いまは空しい床になってしまったことだ。
鑑賞
第三部 椎本

 宇治を訪れた薫が、亡き八の宮の居室のさまに触れてつぶやいた一首である。仏道の師と仰いだ人はすでになく、その座はむなしく残されている。この歌が巻名「椎本」の由来となっており、宇治十帖第二帖を代表する一首として広く知られている。

 「椎が本」は椎の木の根もとで、身を寄せる蔭のたとえである。宇津保物語の「優婆塞が行ふ山の椎が本あなそばそばし床にしあらねば」を踏まえ、俗聖として山に住んだ八の宮を椎の木に重ねている。「床」は座る場所と寝床の両義を持ち、「空し」が主のいない部屋の寂しさを一語で表す。頼るべき人を失った薫の心細さが、木と床という具体物に集約されている。

蔭:木蔭。庇護してくれるもの。

椎が本:椎の木の根もと。

空し:むなしい。主がいない。

床:座る場所。寝床。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌