古典和歌stream

見し人もなき山里の岩垣に
心長くも這へる葛かな

歌の意味
かつて会った人ももういない山里の岩垣に、変わらぬ心で長く這いかかっている葛であることよ。
鑑賞
第三部 総角

 紅葉狩の唱和の四首目で、宮の大夫が詠んだ歌である。「見し人」は亡き八の宮を指し、生前の交わりを思い出しての詠である。遊宴のなかにも故人を悼む声が混じり、宇治という土地が喪の記憶と結びついていることが示される。

 「岩垣」は岩の重なって垣のようになった所のこと。「葛」は蔓を長く伸ばす植物で、「心長し」は気長で変わらないの意である。葛が長く這うさまと、変わらぬ心とを「長し」の一語で重ねている。主を失っても変わらぬ自然の姿が、去った人の不在をかえって強く感じさせる作りになっている。

見し人:かつて会った人。ここでは亡き八の宮。

岩垣:岩が重なって垣のようになった所。

心長し:気長である。変わらない。

葛:蔓を長く伸ばす植物。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌