さきに立つ涙の川に身を投げば
人におくれぬ命ならまし
- 歌の意味
-
何を言うより先に流れ出る涙の川に身を投げていたなら、あの人に後れずにすむ命だっただろう。
- 鑑賞
-
第三部 早蕨
中の君の上京の前夜、薫は宇治に泊まって大君の思い出を語り合った。その席に、大君の死を悲しんで尼となった老女房の弁が呼ばれる。弁は八の宮の家に古くから仕え、薫に柏木の遺文を渡した人でもあった。大君に後れて生き残った身のつらさを訴えたのがこの歌である。薫はこれに返して弁の心をなだめ、宇治に残ることになる弁に、山荘の後のことを託していく。
「さきに立つ涙」は、ものを言う前にまず流れ出る涙のこと。その涙を川に見立て、そこに身を投げていれば大君に後れずに死ねたはずだという。「ならまし」は反実仮想で、そうであったならという叶わぬ願いを表す。老いて主に先立たれた者の嘆きが、涙の川という誇張の効いた言い方によって、かえって切実に響いている。
さきに立つ:先に出る。まず流れる。
涙の川:涙を川に見立てた語。
身を投ぐ:身を投げる。
おくる:後に残される。先立たれる。
ならまし:…であったろうに。反実仮想。
- 作者
-
紫式部
- 出典
-
源氏物語
- その他の歌
-