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過ぎにしが恋しきことも忘れねど
今日はたまづもゆく心かな

歌の意味
亡くなった方が恋しい気持ちは忘れないけれど、今日は何よりもまず心が晴れることだ。
鑑賞
第三部 早蕨

 大輔の君の歌に続けて、別の女房が唱和したのがこの歌である。亡き大君を慕う気持ちは変わらないと前置きしながら、それでも都へ向かう今日はうれしいと率直に述べている。二首の唱和によって、悲しみの中にも救いを見ようとする女房たちの心が示される。一行が宇治を離れると、山荘には弁の尼だけが残り、庭の梅と鴬が主のいない春を迎えることになる。

 「過ぎにし」は過ぎ去った人、ここでは亡き大君を指す。「たまづも」は何よりもまずということで、悲しみを差し置いてでも今日は心が晴れると言っている。前の歌の反実仮想の重さに対して、こちらは現在の心持ちをそのまま述べ、二首で嘆きと安堵の両面をそろえる形になっている。仕える者の目から見た宇治の物語の一面が、ここで簡潔に補われている。

過ぎにし:過ぎ去った人。亡き人。

恋し:慕わしい。

たまづも:何よりもまず。

心ゆく:心が晴れる。満足する。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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