- 歌の意味
- 宇治にいたなら何気なく聞いていただろうに、ひぐらしの声が恨めしく聞こえる秋の暮であることよ。
- 鑑賞
-
第三部 宿木
匂宮の訪れが絶えがちになり、中の君は二条院で心細い日を送っていた。秋の暮れ、ひぐらしの声を聞きながらひとり詠んだのがこの歌である。宇治へ帰りたいという思いはこのころから強くなり、薫にもそれを訴えるようになる。薫は後見人としてなだめながらも、中の君に対する思いを抑えきれなくなっていく。
「おほかたに」は世間なみに、何気なくの意で、宇治にいたころならただの秋の音として聞き流せたはずだという。「ひぐらし」は秋の暮れに鳴く蝉で、寂しさを添える景物である。「秋の暮」の「秋」には「飽き」が掛かり、飽きられた身の嘆きを含む。同じ声が境遇によって違って聞こえるという発想は、前の「山里の松の蔭」の歌と一続きになっている。
おほかたに:世間なみに。何気なく。
ましものを:…であったろうに。
ひぐらし:秋の夕暮に鳴く蝉。
恨めし:うらめしい。
秋:季節の秋。「飽き」を掛ける。
- 作者
- 紫式部
- 出典
- 源氏物語
- その他の歌