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ひたぶるにうれしからまし世の中に
あらぬ所と思はましかば

歌の意味
ひたすらにうれしいことだろう。ここが世の中とは別の所だと思うことができたなら。
鑑賞
第三部 東屋

 匂宮に見つけられた浮舟は、母の手で三条のあやしげな小家へ移された。町なかの物音の絶えない粗末な住まいで、心細い日を送るうちに詠んだのがこの歌である。物語のなかで浮舟が最初に詠む一首であり、どこにも身の落ち着き所がないという、この人物の生涯を貫く感覚が早くもあらわれている。母はこれに返して娘を慰める。

 「ひたぶるに」はひたすらに、まったくの意である。「世の中にあらぬ所」はこの世ではない別の場所で、俗世の煩わしさの届かないところをいう。「ましかば…まし」は反実仮想で、そうであったならという叶わぬ願いを表す。技巧を凝らさない素直な詠みぶりが、かえって浮舟という人物の造型によく合っている。

ひたぶるに:ひたすらに。

世の中:俗世。世間。

あらぬ所:別の場所。ここではない所。

ましかば…まし:…であったなら…だろうに。反実仮想。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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