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まだ古りぬ物にはあれど君がため
深き心に待つと知らなむ

歌の意味
まだ古びてしまってはいないけれど、あなたのために深い心でお待ち申し上げていると知っていただきたい。
鑑賞
第三部 浮舟

 薫二十六歳の暮れ。匂宮は、前の秋に二条院で言い寄ってそのままになった女のことが忘れられず、中の君が隠したのだろうと疑って恨み続けていた。年が明け、宇治から中の君のもとへ文が届く。幼い童がそれを持ち込んだのを匂宮が目にとめ、この歌を読んだ。取り立てて優れた歌ではなかったが、思い続けている人の筆かもしれないと思い当たり、匂宮は中の君に返事を書くよう促して、書き手の身元を探り始める。

 「古りぬ」は古びる、盛りを過ぎるの意である。「待つ」には「松」が掛かるとみる読みがあり、年始の贈答らしい祝いの気分を残している。物語は語り手の口を通してこの歌を「ことなることなき」平凡な一首と評しているが、その平凡さゆえに素通りされかけたものが匂宮の目にとまり、浮舟の運命が動き出す。歌の巧拙ではなく誰の歌かが事態を決めるという、皮肉な場面である。

古る:古びる。盛りを過ぎる。

君がため:あなたのために。

深き心:深い思い。

待つ:待つ。「松」を掛ける。

知らなむ:知ってほしい。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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