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忍び音や君も泣くらむかひもなき
死出の田長に心通はば

歌の意味
忍び音をもらしてあなたも泣いているのだろうか。かいもなく鳴く死出の田長に、心が通っているのなら。
鑑賞
第三部 蜻蛉

 三月の末、浮舟は宇治の山荘から姿を消した。女房たちは入水と察して真相を伏せ、脱ぎ捨てられた衣を車に運んで形ばかりの葬送を営む。石山寺にいた薫は報せを受けて己の落度を悔い、匂宮は病と称して臥せった。月が変わって四月十日、京へ迎えるはずだった日の夕暮れ、庭の橘が香り時鳥が二声鳴いて過ぎるのを聞いた薫は、その枝を折らせ、中の君のもとにいた匂宮へ贈った。

 「忍び音」は時鳥がはじめて忍びやかに鳴く声で、人目を忍んで泣くことを掛ける。「死出の田長」は時鳥の異名で、死出の山を越えて来る鳥とされ、亡き人の使いを思わせる。橘と時鳥は古歌以来の取り合わせであり、橘の香が昔を偲ばせるという型も踏まえている。表向きは弔いの挨拶だが、あなたも泣いているのかと問う一句が、匂宮と浮舟の仲を承知していることを暗に示している。

忍び音:時鳥が初めて忍びやかに鳴く声。

死出の田長:時鳥の異名。

かひなし:むだである。

心通ふ:気持ちが通じ合う。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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