古典和歌stream

笛の音に昔のことも偲ばれて
帰りしほども袖ぞ濡れにし

歌の意味
笛の音によって昔のことも思い出されて、あなたがお帰りになった折にも袖が濡れたことでした。
鑑賞
第三部 手習

 中将の笛の歌に対する妹尼の返しである。亡き娘を偲ぶ心を素直に述べ、涙に袖を濡らしたと応じている。妹尼にとってこの中将は亡き娘の婿であり、来訪そのものが娘を偲ぶよすがでもあった。この温かい応対が、かえって中将を山荘へ通わせ続け、浮舟の重荷を増していくことになる。

 相手の「笛竹」を「笛の音」と受け、「昔のこと」をそのまま繰り返して返す整った返歌である。「偲ばる」は自然と思い出されるの意。「帰りしほど」はお帰りになった折で、去った後の名残の涙をいう。中将の歌が浮舟への訴えを含むのに対し、こちらはあくまで亡き娘の話として受け止めており、意図的なすれ違いともとれる。

笛の音:笛の音色。

偲ばる:自然と思い出される。

ほど:折。時分。

袖濡る:涙に袖が濡れる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
その他の歌