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なきものに身をも人をも思ひつつ
捨ててし世をぞさらに捨てつる

歌の意味
自分も人ももういないものと思いながら、一度捨てたはずのこの世を、さらに捨ててしまった。
鑑賞
第三部 手習

 九月、妹尼の留守に横川の僧都が宮中へ向かう途中で山荘に立ち寄った。浮舟は好機と見て懇願し、ついに出家を遂げる。帰ってきた妹尼は驚き嘆き、中将も知らせを受けて落胆した。だが浮舟自身はようやく心の安らぎを得て、手習にこの歌を書きつけている。二度の出家という数え方で、自らの来し方を振り返った一首である。

 「なきものに」は、もういないものとしての意で、自分の死を装って生きてきたこの一年を指す。「身をも人をも」は自分自身と、都に残してきた人々の双方をいう。「捨ててし世をぞさらに捨てつる」は、入水によって一度捨てた世を、出家によってもう一度捨てたということ。同じ「捨つ」を重ねることで、二重の決別が言い表されている。

なきもの:存在しないもの。死んだもの。

身:わが身。

人:他人。都に残した人々。

捨つ:捨てる。世を捨てる。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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