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心こそ憂き世の岸を離るれど
行方も知らぬ海人の浮木を

歌の意味
心こそはつらいこの世の岸を離れたけれど、行方も知れない海人の浮木のようなこの身なのに。
鑑賞
第三部 手習

 中将の海人舟の歌に対する浮舟の返しである。心は世を離れたが、身は行方も定まらぬ浮木のようなものだと述べ、後を追いたいという相手の申し出を受け流している。出家してもなお自分は寄る辺ない存在だという意識は変わらず、それは浮舟という名そのものにつながる自己認識でもある。

 「憂き世の岸」は相手の詠んだ岸を受けたもので、俗世をいう。「海人の浮木」は海に漂う流木で、「海人」に「尼」を掛け、尼となってなお漂う身をたとえる。浮舟の巻の「浮舟」以来、水に浮かぶものに自らをなぞらえる型が一貫しており、この一首もその系列に連なる。心と身とを分けて述べる構成が、出家後の位置をよく示している。

憂き世:つらいこの世。

岸:俗世のたとえ。

海人:漁師。「尼」を掛ける。

浮木:水に漂う流木。寄る辺ない身のたとえ。
作者
紫式部
出典
源氏物語
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