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しのゝめにおきけるそらにおもほえで
怪しく露と消えかへりつる

歌の意味
東雲の空に起きたときには思いもよらず、不思議にも露のように消え入る心地になってしまった。
鑑賞
 兼家から重ねて文が届いても、作者は返事をしないままでいた。父倫寧が「畏れ多いことだ。しっかりした形でお返事申し上げるのがよかろう」と言い、しかるべき人に代筆させて送らせる。兼家はそれを真面目に喜んで頻繁に文を通わせるが、書き手が本人でないことに不満を漏らし、たびたび本人からの返事を求めるようになる。作者の側はそのつど代筆でまぎらわせ、まじめな文のやりとりだけで月日が過ぎていく。やがて秋になり、贈答を重ねるうちに二人の関係は結婚へと進んでいく。
 兼家は藤原師輔の三男で、当時は右兵衛佐。のちに摂政関白太政大臣に至る。作者は藤原倫寧の娘。倫寧は受領層の人で、この年の暮れに陸奥守として任国へ下る。
 天暦八年の秋のことで、場所は作者の父倫寧の邸である。
 大井の川をめぐる贈答から三日ばかりたった朝に送られてきた歌である。
 この歌に対して作者は「さだめなく消えかへりつる露よりもそらだのめするわれは何なり」と返した。以後は文の往復が続き、やがて「思ほえぬ垣ほにをれば撫子のはなにぞつゆはたまらざりけり」の場面へと移っていく。

 初句の「しのゝめ」は夜明け方で、後朝の文にふさわしい時刻を置く。二句の「おきける」は起きるに、露が置く意を掛けており、下の「露」を導く。「そら」は明け方の空であると同時に、心が上の空である意を響かせる。三句の「おもほえで」は思いもよらないで、の意。四句の「怪しく」は自分でも不審なほど、の意で、思いのほか深く心が乱れたことをいう。結句の「消えかへりつる」は露の縁語で、魂も消え入るような心地をあらわす。掛詞と縁語を重ねながら、別れの朝の心細さを訴える型どおりの後朝歌である。

しののめ:夜明け方。東の空が白むころ。
おく:「起く」に、露が「置く」意を掛ける。
そら:明け方の空に、上の空である意を掛ける。
消えかへる:消え入るような心地になる。
作者
藤原兼家
出典
蜻蛉日記
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