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數々に君かたよりて引くなれば
やなぎのまゆもいまぞひらくる

歌の意味
数々に、あなたが我が方に寄って引いてくださるので、柳の眉も今こそ開くことだ。
鑑賞
 三月の中旬ごろ、この人々が組を分けて小弓の勝負をしようとする。互いに出たり入ったりして騒ぎ立てる。後方の組の者たちがすべてここに集まって行う日、女房に賭物を乞うたところ、そのまま、すぐには思いつかなかったのだろうか、侘びしい戯れに、青い紙を柳の枝に結びつけて出した。それに書きつけてあったのがこの歌である。返しは口々にしたけれど、忘れてしまった程度を推し量ってほしい。一つはこうであった。
 作者は藤原倫寧の娘。賭物を出した女房も、返しを詠んだ射手も、原文は人名を記さない。小弓は室内などで行う小型の弓の遊びで、前方後方などの組に分かれて競う。
 安和二年三月中旬のことで、場所は作者の住まいである。
 賭物の青い紙に書きつけられた「山風のまへよりふけばたこの春のやなぎのいとはしりへにぞよる」に対し、射手たちが口々にした返しのうちの一首である。
 地の文は、返しは口々にしたけれど忘れてしまった程度を推し量ってほしい、と記し、この一首だけを書きとどめている。

 相手の「やなぎ」をそのまま受けて返している。初句の「數々に」は、たびたび、あれこれと、の意で、勝負の数を重ねることをも含む。二句の「君かたよりて」の「かたよる」は一方に寄ることで、後方の組に味方すると言ってきた相手の言い分をそのまま受け止めた語になる。三句の「引くなれば」の「引く」は弓を引く意と、柳の枝を引く意との掛詞で、この一語が弓の場と柳の景とを結び合わせる。四句の「やなぎのまゆ」は芽吹いた柳の葉を眉に見立てた言い方で、柳眉という語による。結句の「いまぞひらくる」は「ぞ」の結びで、その眉が今こそ開く、の意になる。眉を開くとは心が晴れて喜ぶことであるから、味方を得て面目が立ったという喜びを、柳の芽が開く景に重ねる形になる。相手が風向きで味方を示したのに対し、こちらは眉の開くさまで謝意を返しており、賭物の柳一枝を軸に、その場の二人が景を交換してみせた贈答である。

まゆ:柳の芽。「眉」を掛ける。
ひらく:開く。「眉を開く」で心が晴れて喜ぶ意となる。
かた:「方」に「片」を掛ける。
出典
蜻蛉日記
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