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うちとのみ風の心をよすめれば
返しは吹くも劣るらむかし

歌の意味
内へとばかり風の心を寄せておられるようなので、返しに吹くほうは劣ることでございましょう。
鑑賞
 五月の下旬、兼家が、遠くへ旅立つ人に贈る歌をいくつか詠んだが、そちらでも詠んで、優れたほうを贈ろうと思う、と言ってきた。それに応えて作者が詠んだ歌である。
 作者は藤原倫寧の娘。兼家は藤原師輔の三男で、のちに摂政関白太政大臣に至る。旅立つ人は原文に人名の明示がない。餞の品に歌を添えるのは当時の習いで、袋などに結びつけて贈った。
 天延元年五月の下旬のことで、場所は作者の住まいと兼家のもとである。
 兼家が、遠くへ旅立つ人に贈る歌をいくつか詠んだが、そちらでも詠んで、優れたほうを贈ろうと思う、と言ってきた。それに応えて詠んだ歌である。
 この歌ののち、八月の下旬に作者は兼家に告げず広幡の中川へ転居し、「流れてのとことたのみてこしかども我が中川はあせにけらしも」を詠むことになる。

 初句の「うちとのみ」の「うち」は内のことで、自分の側、身内の側をさす。歌合せの言葉として、勝ち負けを判ずる際に一方へ肩入れすることをいう。二句の「風の心をよす」は、風の心を寄せる、の意で、風が一方へ吹き寄せることに、判者の心が一方へ傾くことを重ねる。三句の「よすめれば」で、そのように見えるのでと受け、下の句へ渡す。四句の「返しは吹くも」の「かへし」は返歌であるとともに、吹き返す風をも意味し、この一語が歌の要にあたる。風が吹き寄せるのに対して吹き返す風、という景が、そのまま贈歌に対する返歌の関係になる。結句の「劣るらむかし」は、劣ることでしょうよ、の意で、「かし」が念を押す。歌を合せて優れたほうを贈ろうという申し出に対し、あなたが内へ心を寄せておられるのだから、こちらの返しは劣るに決まっている、と辞退してみせる形である。競うことを避けながら、判定が公平でないと軽く突いており、代作を求められた場に対する応じ方として気の利いた一首になっている。

うち:「内」。自分の側、身内の側をいう。
かへし:返歌。吹き返す風の意をも兼ねる。
餞(はなむけ):旅立つ人に贈る品や言葉。
作者
藤原道綱母
出典
蜻蛉日記
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