古典和歌stream

さごろものつまも結ばぬ玉の緖の
絕えみ絕えずみ世をや結ばむ

歌の意味
狭衣の褄も結ばない、その玉の緒のように、絶えたり絶えなかったりして、この世を結んでゆくのだろうか。
鑑賞
 九月、家の周りの田では稲刈りが行われている。道綱は相変わらず例の女性に文を出しており、歌を詠み贈った。女性からは返事がない。しばらくしてまた詠み贈った。
 作者は藤原倫寧の娘。道綱は作者の子。例の女性は大和だつ人と呼ばれる人で、原文は人名を記さない。中川へ移ってからは、家の周囲に田が広がる暮らしになっている。
 天延元年九月のことで、場所は三輪の山本にある女性の家である。
 中川へ移って稲刈りの季節を迎えたころ、道綱は相変わらず例の女性に文を出しており、そのなかで詠み贈った歌である。
 女性からは返事がなかった。しばらくしてまた道綱が「露深き袖にひえつゝあかすかなたれ長き夜のかたきなるらむ」と詠み贈る。

 初句の「さごろも」は狭衣で、衣の美称である。二句の「つま」は衣の褄、すなわち裾の端のことであるが、端の意から妻の意をも響かせ、結ばぬという語と合わさって、契りを結ばないという意を導く。旅立つ前に衣の褄を結ぶという習いがあり、結ばないとは縁を結べないことになる。三句の「玉の緖」は命のことで、玉を貫く緒の細さから、はかない命のたとえとして用いられる。四句の「絕えみ絕えずみ」は、絶えたり絶えなかったりして、の意で、緒が切れそうで切れないさまをいい、そのまま二人の間柄の続き方をあらわす。結句の「世をや結ばむ」の「むすぶ」は、初句以来の結ぶという語をここで受け直したもので、緒を結ぶ意と、契りを結ぶ意とを兼ねる。結ばない褄から始まり、絶えみ絶えずみを経て、なお結ぼうとするかと問う形で終わっており、結ぶという一語を軸に一首が組み立てられている。返事の来ない相手に、それでも続けようとする意思を告げる歌である。

さごろも:狭衣。衣の美称。
つま:衣の「褄」に「端」、さらに「妻」を響かせる。
玉の緖:玉を貫く緒。はかない命のたとえ。
作者
藤原道綱
出典
蜻蛉日記
その他の歌