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露深き袖にひえつゝあかすかな
たれ長き夜のかたきなるらむ

歌の意味
露深い袖に冷えながら夜を明かすことよ。いったい誰が、この長い夜の敵なのだろう。
鑑賞
 九月、家の周りの田では稲刈りが行われている。道綱は相変わらず例の女性に文を出しており、歌を詠み贈った。女性からは返事がない。しばらくしてまた詠み贈った。
 作者は藤原倫寧の娘。道綱は作者の子。例の女性は大和だつ人と呼ばれる人で、原文は人名を記さない。中川へ移ってからは、家の周囲に田が広がる暮らしになっている。
 天延元年九月のことで、場所は三輪の山本にある女性の家である。
 玉の緒の歌に返事がないまま、しばらくして道綱がまた詠み贈った歌である。
 この一連ののち、中川へ移ってからは縫物の依頼が頻繁になるありさまが記され、やがて年が改まる。

 初句の「露深き」は露が深く置いた、の意で、九月の夜の景であるとともに、涙に濡れた袖をも示す。二句の「袖にひえつゝ」は、袖に冷えながら、の意で、濡れた袖が夜気に冷えるという身体の感覚を置く。露を涙にたとえる歌は多いが、その濡れが冷たいとまで言うのは珍しく、独り寝の実感がよく出ている。三句の「あかすかな」は、夜を明かすことよ、と詠嘆で受ける。四句の「たれ長き夜の」は、いったい誰が長い夜の、の意で、問いの形を作る。結句の「かたきなるらむ」の「かたき」は敵、すなわち相手取るべき者のことで、長い夜を長くしているのは誰なのか、と問う形になる。返事をくれない相手を責める言い方であるが、名指しはせず、誰なのだろうと問うにとどめている。長い夜を敵と呼ぶ言い方は珍しく、恋の歌としてはやや強い調子であり、返事の絶えた期間が長引いていることが、この措辞に出ている。

露(つゆ):涙のたとえ。
かたき:敵。相手取るべき者。
あかす:夜を明かす。
作者
藤原道綱
出典
蜻蛉日記
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