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巻向の檜原のいまだ曇らねば
小松が原に淡雪ぞ降る

歌の意味
巻向の檜原はまだ雲がかかっていないのに、小松の原には淡雪が降っている。
鑑賞
巻第一 春歌上 20

詞書「題しらず」
 前歌に続いて淡雪を詠む。ただしこちらは見立てを用いず、雲のない空から雪が降るという不思議を、そのまま二つの地名の対比として示す。詞書は「題しらず」で、詠作の事情は伝わっていない。
 作者の「中納言家持」は大伴家持(七一八頃〜七八五)である。大伴旅人の子で、中納言に至った。『万葉集』の編纂に深く関わったとされ、同集に最も多くの歌を残している。
 場面は早春、場所は大和国の歌枕である巻向(現在の奈良県桜井市)とその近くの小松が原である。
 詠まれた直接の契機は伝わらない。
 この歌は『万葉集』巻十に見える、巻向の檜原に雲がかからないうちに小松の梢から沫雪が流れる、という歌に基づく。

 初句
二句「巻向の檜原の」は、巻向の地の檜が生い茂る原を指す。歌枕を掲げて場所を定める。
 三句「いまだ曇らねば」の「ね」は打消の助動詞「ず」の已然形で、「ば」を伴って原因
理由を表す。雲がかかっていないのに、という含みで下に続き、晴れた空を示す。
 四句「小松が原に」で場所が檜原から小松の原へ移る。高く茂る檜と、丈の低い小松という対比があり、視線が上から下へ下りる。
 結句「淡雪ぞ降る」は前歌と同じ結びで、「ぞ」の係り結びによって雪の降ることが強く示される。空は晴れているのに雪が降るという、理屈に合わない景をそのまま提示するところに万葉歌らしい把握がある。
 前歌が同じ「淡雪ぞ降る」で結ばれており、結句を共有する二首が並べて配されている。

巻向:大和国の歌枕。現在の奈良県桜井市の一帯
檜原:檜の生い茂る原
小松が原:丈の低い松の生えた原
作者
大伴家持
出典
新古今和歌集
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