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梅が香に昔を問へば春の月
答へぬ影ぞ袖に映れる

歌の意味
梅の香によって昔を問いかけると、春の月は答えないまま、その光だけが袖に映っている。
鑑賞
巻第一 春歌上 45

詞書は前の歌に続き「百首歌たてまつりし時」
 前歌と同じ百首歌の詠で、同じく梅の香と月を袖の上に取り合わせる。ただしこちらは香と光を争わせるのではなく、月に問いかけて答えを得られないという形をとる。原文では詞書が改めて記されていない。
 作者の藤原家隆は本巻では第十七首
第三十七首に続く三度目の登場となる。
 場面は梅の咲くころの夜、場所は特定されない。
 直接の契機は百首歌の詠進である。

 初句「梅が香に」は、梅の香によって昔が思い出される、という契機を示す。香りが記憶を呼ぶという捉え方である。
 二句「昔を問へば」は、過ぎた日のことを問いかけると、の意である。問う相手は明示されないまま、下の「春の月」がそれとして据えられる。
 三句
四句「春の月答へぬ影ぞ」の「ぬ」は打消の助動詞の連体形で、「答へぬ影」は答えない光、の意である。月に人格を与えたうえで、その沈黙を言う。
 結句「袖に映れる」は「ぞ」の結びで連体形となる。「映れる」は映っている状態を表す。答えは返らないが、光だけは確かに袖に届いているという結びであり、涙に濡れた袖を暗に示す読み方もできる。
 前歌が香と光を争わせたのに対し、この歌は問いと沈黙という関係に置き換えている。同じ「袖」を舞台にしながら、扱いを変えて並べる配列になっている。

むかし:過ぎ去った日々。昔のこと
うつる:映る。光や影が現れる
作者
藤原家隆
出典
新古今和歌集
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