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聞く人ぞ涙は落つる帰る雁
鳴きて行くなる曙の空

歌の意味
聞いている人こそ涙を落とすのだ。帰る雁が鳴きながら去っていくらしい曙の空よ。
鑑賞
巻第一 春歌上 59

詞書「刑部卿頼輔歌合し侍りけるによみてつかはしける」
 帰雁の一連の二首目である。前歌が雁の側の心細さを詠んだのに対し、この歌はそれを聞く人の側に涙を移す。詞書によれば刑部卿頼輔が催した歌合に詠んで送った歌である。
 作者の藤原俊成は本巻では第五首
第十五首
第十六首に続く四度目の登場となる。歌合の主催者である藤原頼輔(一一一二〜一一八六)は刑部卿を務めた人物である。
 場面は春の明け方、場所は特定されない。
 直接の契機は歌合への出詠である。

 初句
二句「聞く人ぞ涙は落つる」の「ぞ」は係助詞で、「落つる」の連体形が結びとなる。泣くのは雁ではなく、その声を聞く人のほうだ、という限定である。前歌が雁を擬人化したのに対し、この歌は擬人化を退けて人の側に感情を戻している。
 三句「帰る雁」で対象が示される。
 四句「鳴きて行くなる」の「なる」は伝聞推定の助動詞「なり」の連体形で、音によって判断していることを表す。姿は見えず、声だけが聞こえる状況である。
 結句「曙の空」は体言止めで、前歌と同じく明け方の空で結ばれる。二首が同じ結びを共有しつつ、雁の側と人の側という視点の違いで対をなしている。
 聴覚だけを手がかりにして情景を組み立てる点は、第十七首の家隆歌にも通じる。

なり:伝聞推定の助動詞。音などから〜のようだと判断する
あけぼの:夜がほのかに明けるころ
作者
藤原俊成
出典
新古今和歌集
その他の歌