古典和歌stream

高瀬さす六田の淀の柳原
緑も深く霞む春かな

歌の意味
高瀬舟が棹をさす六田の淀の柳原よ。緑も深く、霞んでいる春であることだ。
鑑賞
巻第一 春歌上 72

詞書「建仁元年三月歌合に霞隔遠樹といふことを」
 柳の一連の四首目である。詞書の「霞隔遠樹」は、霞が遠くの樹を隔てる、の意で、その題によって詠まれた。遠くの柳原が霞に隔てられて見えるさまを詠む。
 作者の「権中納言公経」は西園寺公経(一一七一〜一二四四)である。のちに太政大臣に至り、鎌倉幕府との縁により大きな権勢を得た。
 場面は春、場所は大和国の歌枕である六田の淀である。吉野川の渡し場で、川の流れの緩やかなところをいう。
 直接の契機は建仁元年(一二〇一年)三月の歌合への出詠である。

 初句「高瀬さす」の「高瀬」は浅瀬を行く舟をいう。「さす」は棹をさすことである。人の営みから歌が始まる。
 二句「六田の淀の」で場所が定まる。「淀」は水の流れが緩やかによどんだところである。
 三句「柳原」は柳の生い茂る一帯をいう。ここまでで遠景が示される。
 四句「緑も深く」の「も」は、緑までも、の含みで、霞の深さと緑の深さが重ねられる。「深く」が霞と緑の両方に掛かる形になっている。
 結句「霞む春かな」の「かな」は詠嘆の終助詞である。題が「霞隔遠樹」であるから、霞に隔てられて見えにくいことが主題であるはずだが、この歌は隔てられてなお緑が深いと詠み、霞ごしの色を捉えている。第三十五首が霞の切れ間から入日を見たのに対し、こちらは霞を通して色を見ている。

たかせ:浅瀬を行く舟。高瀬舟
よど:水の流れが緩やかによどんだところ
やなぎはら:柳の生い茂る一帯
作者
藤原公経
出典
新古今和歌集
その他の歌