古典和歌stream

今桜咲きぬと見えて薄曇り
春に霞める世の気色かな

歌の意味
今しも桜が咲いたと見えて、空は薄く曇り、春に霞んでいる世の中のようすであることだ。
鑑賞
巻第一 春歌上 83

詞書「百首歌たてまつりしに」
 桜の一連の五首目である。開花の瞬間を捉え、それを世界全体の気配として詠む。詞書の「百首歌たてまつりしに」は正治二年の正治初度百首を指す。
 作者の式子内親王は本巻では第三首
第五十二首に続く三度目の登場となる。
 場面は桜の咲きはじめる日、場所は特定されない。
 直接の契機は百首歌の詠進である。

 初句「今桜」は、今ちょうど桜が、の意で、時を強く限定して歌が始まる。
 二句「咲きぬと見えて」の「ぬ」は完了の助動詞、「と見えて」は、そう見えて、の意である。断定せず、そう見えるという形にとどめている。
 三句「薄曇り」は空の状態で、桜の開花に呼応して空も変わる。
 四句「春に霞める」で霞が示され、結句「世の気色かな」に係る。「気色」はようす、けはいの意である。
 一本の木や一つの景ではなく、「世」という大きな語で受けている点にこの歌の特色がある。桜が咲いたことで世界全体の見え方が変わる、という捉え方であり、第三首で山中の一点の雫を詠んだ同じ作者が、ここでは視野を最大限に広げている。

けしき:ようす。けはい
うすぐもり:空が薄く曇ること
作者
式子内親王
出典
新古今和歌集
その他の歌