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吉野山去年の栞の道かへて
まだ見ぬ方の花を尋ねん

歌の意味
吉野山の、去年しるしを付けておいた道を変えて、まだ見ていない方角の花を訪ねよう。
鑑賞
巻第一 春歌上 86

詞書「花歌とてよみ侍りける」
 桜の一連の八首目である。前歌が道行く人に呼びかけたのに対し、この歌は自ら道を変えて分け入る。詞書によれば花の歌として詠まれた。
 作者の西行法師は本巻では第七首
第二十七首
第五十一首
第七十九首に続く五度目の登場となる。生涯に多くの桜の歌を残し、とりわけ吉野を繰り返し詠んだ。
 場面は桜の咲くころ、場所は大和国の吉野山である。第七十九首と同じ土地であり、そこで花を待った歌に続いて、ここでは花を訪ねる歌が置かれている。
 直接の契機は「花」の題による詠である。

 初句「吉野山」で場所を掲げ、二句「去年の栞の」で去年の記憶に触れる。「栞」は木の枝を折って道しるべとすることをいう。同じ山に何度も入っている者の歌であることが、この一語で示される。
 三句「道かへて」は、その道しるべをあえて外れる、の意である。前に見た花では足りないという心が働いている。
 四句「まだ見ぬ方の」は、まだ見ていない方角の、の意である。
 結句「花を尋ねん」の「ん」は意志の助動詞で、訪ねよう、と結ぶ。
 同じ山に通いながら、毎年ちがう場所を求めるという構えであり、花に対する尽きない執心が示される。第五十一首で人を招いた作者が、ここでは自ら山へ入っていく。

しをり:木の枝を折って道しるべとすること。またその枝
かた:方角。方向
作者
西行法師
出典
新古今和歌集
その他の歌