寝もやすく寝られざりけり春の夜は
花の散るのみ夢に見えつつ
- 歌の意味
-
安らかに眠ることもできなかった。春の夜は、花の散るところばかりが夢に見え続けて。
- 鑑賞
-
巻第二 春歌下 106
詞書は前の歌に続き「題しらず」
花のもとで過ごす歌の三首目である。前歌が忘れがたい一夜を詠んだのに対し、この歌はその夜が眠れぬ夜であったことを詠む。二首が同じ夜を表と裏から扱う形になっている。原文では詞書が改めて記されていない。
作者の凡河内躬恒は『古今和歌集』の撰者の一人である。巻第一では第二十二首
第六十八首に現れた。
場面は春の夜、場所は特定されない。
詠まれた直接の契機は伝わらない。
初句「寝もやすく」の「寝」は眠りのことで、安らかに眠ることを言う。
二句「寝られざりけり」の「られ」は可能の助動詞、「ざり」は打消で、眠ることができなかった、の意になる。「けり」の詠嘆が、そうであったのだなという気づきを添える。
三句「春の夜は」で理由が示される位置に入る。
四句「花の散るのみ」の「のみ」は限定で、散る場面ばかりが、の意である。まだ散っていないのに、夢の中では散り続けている。
結句「夢に見えつつ」の「つつ」は継続を表し、言い切らずに結ぶ。眠れぬまま夢を見るという矛盾を含んだ言い方であり、浅い眠りを繰り返す一夜が示される。花の盛りにあってすでに散ることを思うという先取りは、次の第百七首以下の散る花の歌へと続いていく。
い:眠り。睡眠
のみ:限定を表す。〜ばかり
- 作者
-
凡河内躬恒
- 出典
-
新古今和歌集
- その他の歌
-